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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1375号 判決

控訴人(原告)

平山勝二

被控訴人(被告)

神崎卓

ほか一名

主文

原判決中、控訴人敗訴の部分を次のとおり変更する。

被控訴人らは控訴人に対し各自金一二万四、九八六円及びこれに対する昭和四七年一〇月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

控訴人の当審における請求につき、被控訴人らは控訴人に対し、各自金三六、八〇〇円及びこれに対する昭和四七年一〇月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人の当審におけるその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、これを三分し、その一を被控訴人らの、その余を控訴人の負担とする。

この判決は、主文第二、四項に限り、仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金一七八万六、九六〇円(当審において金一五万二、〇〇〇円の請求を拡張)及びこれに対する昭和四七年一〇月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却並びに当審における拡張請求を棄却する旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決二枚目表終りから二行目「所有」を「所用」と、同五枚目裏六行目「左折」とあるを「右折」と、それぞれ訂正する。)であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人は次のとおり述べた。

一  原判決三枚目表一一行目「四九一、八六七円」を「五三七、八六七円」と訂正し、裏七行目「日当金四二、〇〇〇円」の次に「昭和四八年八月一日から昭和四九年三月一六日まで皆川治療院における二三回の治療費合計金四六、〇〇〇円」を、同四枚目表六行目「める。」のつぎに「控訴人は本件事故発生後昭和四九年三月一六日までの治療日数一〇二日間は勿論、その間更に一〇〇日は休業せざるを得なかつたので、この間の休業により、すくなくとも自動車損害賠償保障における事業損害算定基準による休業補償額一日三、〇〇〇円の割合による右休業期間二〇二日間の補償額六〇万六〇〇〇円相当の得べかりし利益を失つたことになるので、右金額の支払を求める。」を、それぞれ付加する。

二  本件事故の発生について、控訴人は全く責任がない。あつたとしてもその過失割合は精々一〇パーセント程度に過ぎない。すなわち、本件事故発生当時、控訴人は右折のために徐行しながら右折の合図をし、且つ道路の中央に寄り右折を開始し始めたところ、被控訴人神谷修一は、スピードを出し過ぎ控訴人の右側を通過できるものと誤信したものの、通過し切れずに本件事故に至つたものであるから、本件事故は主として被控訴人神谷修一の責によるものである。

被控訴人ら代理人は次のとおり述べた。

控訴人主張の治療費については、本件事故による控訴人の傷害との因果関係を争う。休業補償については、控訴人が事故発生当時、就労により収入を得ていた事実がないから、逸失利益の損害は生じていない。〔証拠関係略〕

理由

一  本件事故の発生、被控訴人らの責任、控訴人の本件事故により被つた傷害、その治療と治療のため控訴人の支出した費用についての当裁判所の判断は、以下に付加もしくは訂正するほか、原判決理由中の説示と同一であるから、原判決七枚目表六行目から同一一枚目表七行目までをここに引用する。

1  原判決七枚目表終りから二行目「証人桑田正の証言」の前に「当審及び原審」を同行及び同八枚目表六行目「原告並びに被告神谷修一の各本人の尋問」の前に「原審及び当審における」を、それぞれ付加する。

2  原判決七枚目裏二行目道路上の次に「(当審における控訴人本人尋問の結果によると道路の幅員は六メートル位でセンターラインの標示のあることが認められる。)」を付加し、同裏終行「漫然追越しをかけ」を「被控訴人神谷は、控訴人車の方向指示器は故障しており、控訴人車は直進するものと軽信し、漫然追越態勢に入り時速六〇キロに加速して」と訂正する。

3  原判決八枚目表終りから二行目「原告には」から同裏四行目までを削除し、「控訴人は道路外に出るため右折しようとするときは、あらかじめその前からできる限り道路の中央に寄り、かつ徐行して事故の発生を未然に防ぐ義務があるに拘らず、控訴人車は徐行はしたものの、むしろ一旦道路の左側に寄つてから右折を開始したことが認められ、右事実によると、控訴人車が道路中央に寄ることを怠り漫然右折を開始したのに過失があることは明らかであつて、この過失の割合は、被控訴人神谷八控訴人二と解するを相当と判断する。

控訴人は控訴人車が道路中央に寄つて右折を開始したと主張し、当審における控訴人本人尋問の結果中には右主張にある部分があるけれども、前掲各証拠に照らして信用できず、ほかに、前記認定を覆えすに足る証拠はない」と訂正する。

4  原判決一〇枚目裏四行目の末尾に、「控訴人は昭和四八年八月一日から昭和四九年三月一六日までの皆川治療院における治療費金四六、〇〇〇円を支出したと主張し、弁論の全趣旨により成立を認められる甲第二一号証の一ないし二三によると控訴人が皆川治療院に右期間中の治療費合計金四六、〇〇〇円を支払つたことが認められる。」を付加する。

二  次に当審における逸失利益の主張について判断すると、控訴人は本件事故当時桜川村々議員としての副議長を勤めていたが事故により受けた傷害のため議員としての職務に耐えられず遂に退職しその後の選挙にも立候補を断念せざるを得ず、他の仕事もできなかつたとして休業期間二〇二日分の自動車損害賠償保障における事業損害算定規準による休業補償額一日三、〇〇〇円の割合により算定した金六〇六、〇〇〇円を請求するというのであるが控訴人が村会議員に立候補したからといつて当然当選するとは限らない以上、控訴人がたとえ立候補を本件事故のため断念したとしても、控訴人が本件事故に逢わなければ当然議員に当選するものと想定し、予想される議員の給与を逸失利益算定の基礎とすることは前記の通り許されず、本件事故当時控訴人に議員給与のほかに収入のあつたことを認めることのできる証拠がない。なお、〔証拠略〕の一部によると、事故後収入を伴う職業につかなかつたことが認められるけれども、そのことが本件事故に起因したことを認めることのできる証拠がない。よつて、逸失利益の算定につき自賠保障事業損害算定規準の適用の余地なきものといわざるを得ない。

三  以上の次第であるから、控訴人は本件事故による傷害の治療に前記治療費合計四九万五、八六七円を支出して同額の損害を蒙つているものと認められ、これに、前記認定の一切の事情を斟酌して相当と認められる慰藉料金八〇万円合計一二九万五、八六七円が控訴人の蒙つた損害と解されるところ、前記認定の過失相殺によると、右の八割に当る金一〇三万六、六九三円(円未満切捨て)につき、被控訴人神谷は民法第七〇九条により、被控訴人神崎は被控訴人車の運行供用者であることに争いがないから自賠法三条により、それぞれ右の損害を賠償する義務があると判断される。

よつて、被控訴人らは控訴人に対し、各自金一〇三万六、六九三円およびこれに対する本件記録上訴状送達の日の翌日であること明らかな昭和四七年一〇月一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があると解され、控訴人の請求は当審において拡張した部分を含め、右の限度で理由があるとして認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。

四  以上の次第であるから控訴人の原審請求につき右と一部判断を異にする原判決は一部失当であるので、その限度(一二万四、九八六円)においてこれを変更し、その余は棄却することとし、控訴人の当審において拡張した請求は一部を正当として認容し、(三万六、八〇〇円)、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、民事訴訟法第三八四条、第三八六条、第九六条、第九五条、第九三条、第八九条、第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡田辰男 小林定人 野田愛子)

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